白柳淳作品集U 曲解説

 
1.足跡は風に消えて 
夜中の1時頃、友人と電話をしていて、突然この曲が頭に閃き、 2時頃に完成し、「できた!」と再び電話しようと思ったが、 迷惑なのでやめた。A.ラウロを意識していたのが全然違う曲ができた。 タイトルには、騎馬民族の誇りが、そして足跡が、時代の風に流されて 消えようとしている中で、彼らの本当の誇りは彼らの心に生きつづける という意味をこめた。
2001年2月 第10作
(CD解説より)
2.クルチンさんとオリガさん 
とにかくすぐにできた曲。当時「ナージャ希望の村」というスライドに 音楽を提供していて、製作チームの「ナージャの風」の皆さんにもすぐに 受け入れられた。そのスライドで、ナレーションが「クルチンさんとオリ ガさんは村で一番上手に豚を育てます」と入るのだが、それがぴったりだ ったので、タイトルにした。
2001年11月 第19作
(CD解説より)
3.争いの爪跡 
ずっと長い間タイトルの無い曲だった。2001年、デモテープ用に タイトルをつけた。その2年後、争いが反戦デモを踏みにじって起こり、 最も弱い立場の人々に最も深い爪跡を残した。「禁じられた遊び」で 語られていた悲劇が、半世紀経ってまた現実のものとなってしまった。
1996年 第4作
(CD解説より)
4.岩壁の風 
この曲は、そろそろ自分の道を決めなくてはという大学卒業を前に、 友人の家のベランダで思いついた。この曲を、ゆったりした中間部 を含む3部構成にしたらとすすめられたが、中だるみを嫌い、前奏 をのちに作曲し、完成に至る。学生という枠を出て、今、自分の事 を自分で決めなければならないということが、岩壁の上で風にさら されているようだと感じた。
1996年 第6作
(CD解説より)
5.五月雨と藤の香り 
雨が降っていた。出かけるのもめんどうだった。彼女が「曲を作ってくれ」 と言う。私は「いやだ」と言った。やがて、彼女が戸を開けた。 「藤が咲いている。香りがする」と彼女が言った。私は、どんな時にも 心を開いて幸せを感じる彼女は、すばらしいと思った。私はいつもその 暖かな心を持っていてほしいと願いを込めて、この曲を作った。 しかし彼女は、「天の贈りもの」が気に入っていて、いまだにああいう曲を 作ってくれと言っている。
2002年5月 第20作
(CD解説より)
6.雅歌 
岡山県倉敷市にある大原美術館を訪れた私を、一枚の絵が釘付けにした。 なんと音楽的な絵であろうか。そしてタイトルは雅歌。どんな歌なのだ ろうか。そしてこの人物はどこから来てどこに行くのだろうか。吸い込 まれるようにこの曲が完成した。私のギターケースにはこの絵を模写して あり、このケースが後にたくさんの出会いを運んでくれた。 その中で、「雅歌」というのは聖書の言葉だと知ることになる。
2001年6月 第14作
(CD解説より)
7.鏡池 
三方を山に囲まれたこの池は、長野県の戸隠村にある。 今は車で池の前に入っていけるのだが、昔の人々は歩いて ここにたどりつき、そして、水面のもやが晴れた瞬間に 出会うことが、あったのだろうと想像して作曲した。
2001年11月 第18作
(CD解説より)
8.蛍の星空 
2001年6月、長野県小県郡丸子町。私は、初めて蛍の光の中に立った。 この時期にしか、そして澄んだ流れの中にしか見ることのできない幻想的な 世界。蛍が求愛のために光っている、それは彼らにとっては生きるための 行動でしかない。私達はこれ以上、他の生き物の居場所を奪ってよいの だろうか。私にできることは水を汚さないことと、蛍の美しさを伝えて いくことだ。タイトルはピエール・ブッシュ氏による。 彼とはこの日初めて出会い、共に蛍を見た。彼の「芸術家!曲できたか!」 という言葉からこの曲を作り、彼は1週間後、栃木県からこの曲を聞きに来て くれ、タイトルを付けてくれたのだ。
2001年6月28日 第16作
(CD解説より)
9.走馬灯 
人は死に直面したとき、今まで見てきたものが走馬灯のように 頭の中をめぐるという。私は私の中で不安と向き合うとき、 そんな風に思うときがある。そしてそれを乗り越えても、 また新しい不安が形を変えて現れる。それこそ走馬灯のように。
2001年7月 第17作
(CD解説より)
10.今を生きること 
はるか遠くに見える目的地を見て、足を止めたくなってしまうこと もある。自分の速度と距離を考えるととてもたどりつけそうにない からだ。しかし、進むことで力もつき、速度も上がる。考えること でそれを忘れてしまうのは人間だけかもしれない。今できることを 懸命にやる。生き物すべてが、今を生きているのだ。
2000年 第8作
(CD解説より)